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ADHDで同じ曲をリピートするのはなぜ?脳の仕組みと集中に活かすコツ

こんにちは。発達グレーとライフデザイン手帖の、ひかり先生です。

お気に入りの曲を見つけると、何時間も、あるいは何日も飽きることなく延々とリピートして聴き続けてしまうことはありませんか。「またその曲聴いてるの?」と周りから驚かれたり、自分でも「なぜこんなに一つの曲に執着してしまうんだろう」と不思議に思ったりすることもあるかもしれませんね。

実は、ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方が同じ曲を反復して聴く背景には、脳内のドーパミン不足や、精神を安定させるための巧妙なメカニズムが深く関わっていることがわかっています。この記事では、なぜ同じ曲が私たちをこれほどまでに落ち着かせるのか、そしてその特性をどうやって仕事や勉強の「武器」に変えていくかについて、私なりに深く掘り下げて解説します。

この記事でわかること

この記事を読み終える頃には、自分の「こだわり」が実は脳を助けるための賢い戦略だったことに気づき、もっと自分の特性を愛せるようになるはずですよ。それでは、一緒に見ていきましょう。

ADHDで同じ曲をリピートする心理と脳の仕組み

なぜ特定の曲にこれほどまでに執着してしまうのでしょうか。そこには、単なる「好き」という感情を超えた、脳の切実なニーズが隠されているようです。ここでは、ADHDの脳内で起きている不思議なメカニズムを紐解いていきましょう。

不足したドーパミンを補う自己治療的なメカニズム

ADHDの特性を持つ人の脳内では、「ドーパミン」という神経伝達物質の働きが不足気味、あるいは効率的に機能していないという説が有力です。ドーパミンは、やる気や報酬、喜び、そして「集中力の維持」に欠かせない物質です。このドーパミンが不足すると、脳は常に「何か刺激はないか?」「もっと面白いことはないか?」と、外部に報酬を求め続ける「飢餓状態」のようなモードに入ってしまいます。

好きな音楽を聴くという行為は、実は脳に手軽なドーパミン報酬を与える最高の方法の一つなんです。特に、自分が「ここだ!」と感じる最高のサビやフレーズを聴く瞬間、脳の報酬系は活性化され、ドーパミンが放出されます。ADHDの人が同じ曲を何度もリピートするのは、無意識のうちにこのドーパミンの放出を維持し、脳の覚醒レベルを「ちょうどいい状態」に保とうとする一種の「自己治療(セルフメディケーション)」だと言えるでしょう。

ドーパミンと音楽の関係まとめ

(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット『ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療』

これは、お薬による治療がターゲットとしている部位と同じようなところに作用しているという考え方もあります。誰かに迷惑をかけているわけではないので、まずは「私の脳が、一生懸命コンディションを整えようとしているんだな」と肯定的に捉えてあげてくださいね。

同じ曲を聴くと落ち着く理由と予測的符号化

ADHDの人は、新しい刺激には敏感ですが、一方で「予測できない急な変化」には強いストレスを感じやすい側面も持ち合わせています。現代社会は予測不能なことの連続ですよね。突然の通知音、予期せぬスケジュールの変更、騒がしい街の音……これらは過敏な脳にとって大きなリソースを消費する負担になります。

ここで大きな助けになるのが「すでに知り尽くしている曲」です。何百回も聴いた曲なら、次にどの楽器が鳴り、どのタイミングで歌詞が始まり、いつ終わるかを脳が100%完璧に予測できます。これを脳科学や心理学では「予測的符号化(Predictive Coding)」の観点から説明することがあります。脳が「次はこう来るぞ」と予測し、その通りに音が流れてくることで、脳は「余計な情報を処理しなくていい」と判断し、深い安心感を得ることができるのです。

いわば、特定の音楽が「精神的な安全シェルター」のような役割を果たしてくれているわけです。作業中に同じ曲をループさせることで、外部の予測不能なノイズを遮断し、自分の内側に集中できる「バリア」を張っているのですね。

聴覚的なスティミングがもたらす安心感

皆さんは、無意識に貧乏ゆすりをしたり、指先をトントン動かしたり、ペンをカチカチ鳴らしたりすることはありませんか?これらは「スティミング(自己刺激行動)」と呼ばれ、自分の感覚を一定に保ち、不安や興奮を鎮めるための行動です。同じ曲を繰り返し聴くことも、実は「聴覚的なスティミング」の一種だと考えられています。

一定のリズムや心地よいサウンドを反復して取り入れることで、脳の過剰な興奮を鎮めたり、逆に退屈すぎる環境で適度な刺激を維持したりして、自分の心身の状態をフラットに保っています。特にアップテンポでリズムが強調された曲のループは、脳にとっての「メトロノーム」や「ペースメーカー」のような役割を果たし、ダラダラしてしまいがちな時間をピシッと引き締めてくれる効果も期待できます。

聴覚的スティミングのメリット

ただし、一点だけ注意したいのが音量です。集中しすぎるとついつい音を大きくしがちですが、長時間のリスニングは耳への負担も大きくなります。骨伝導イヤホンなどを活用して、耳の健康にも少しだけ配慮してあげてくださいね。

ASDや強迫症によるこだわりとの決定的な違い

「同じ曲を聴き続ける」という行動は、自閉スペクトラム症(ASD)や強迫症(OCD)の方にも見られることがありますが、その動機には少し違いがあるようです。この違いを知ることで、自分の特性をより深く客観的に理解できるようになりますよ。

ADHDの場合、主な動機は「ドーパミン報酬」や「適度な覚醒レベルの維持」です。「楽しいから」「作業が進むから」といった、ポジティブな機能性を求めていることが多いんですね。一方で、ASDの場合は「ルーチンの維持」や「同一性の保持」といった、世界が変化しないことへの安心感が背景にあります。また、強迫症の場合は「この曲を聴かないと悪いことが起きるかもしれない」といった不安を打ち消すための「儀式」としての意味合いが強くなることがあります。

特性主な動機・背景リピートの終わり方
ADHDドーパミン報酬、集中、覚醒維持突然飽きる、興味が他へ移る
ASDパターンの不変性、同一性の保持数ヶ月〜数年単位で長く続く傾向
強迫症不安の解消、義務感(儀式)不安が解消されるまで(強制的)

もちろん、これらは明確に分かれているわけではなく、ADHDとASDが併存している場合などは両方の理由が混ざっていることもよくあります。自分の行動がどれに近いかを知ることは、自分にぴったりの対策を選ぶための第一歩。もし日常生活に支障が出るほど強くこだわってしまう場合は、専門家に相談してみるのも一つの知恵ですよ。

ある日突然飽きる現象と報酬系の馴化について

「あんなに大好きで、昨日まで何百回も聴いていた曲なのに、今日起きたら急に生理的に受け付けないほど飽きてしまった……」そんな極端な経験はありませんか?実はこれも「ADHDあるある」の一つ。その正体は脳の「馴化(じゅんか)」という仕組みです。

どんなに刺激的な音楽でも、脳が完全にパターンを学習し尽くしてしまうと、ドーパミンが放出されなくなります。ADHDの脳は、新しい刺激への感度が高い分、刺激に慣れるスピード(飽きるスピード)も非常に速い傾向があるんです。昨日の「神曲」が、今日は「ただの雑音」に感じられる。この急激な変化に戸惑うかもしれませんが、それはあなたの脳が「新しい報酬(ドーパミン)」を求めて、次のステージに進もうとしている健全なサインでもあります。

飽きることへの向き合い方

「自分は根気がない」「すぐ飽きる」と自分を責めないでくださいね。脳の報酬システムがそういう構造になっているだけ。飽きたら潔く、感謝を込めてその曲を卒業し、次の「神曲」を探しに行きましょう!

ADHDで同じ曲を聴く特性を仕事や勉強に活かすコツ

この「同じ曲をリピートしたくなる」という特性を、単なる癖で終わらせるのはもったいないですよね。実は、上手にコントロールすれば、仕事や勉強の生産性を劇的に引き上げる「最強の武器」になります。ここからは、実践的な活用術をご紹介します。

集中力を高めるための作業用BGMの選び方

作業用BGMを選ぶときの鉄則は、「今の自分の脳の状態(覚醒度)と曲のテンションを同期させること」です。これを心理学では「同質の原理」と呼ぶこともあります。

例えば、やる気が出なくて体が重いときは、少しアップテンポな曲で脳を「強制起動」させる。逆に、頭が冴えすぎてイライラしたり焦ったりしているときは、ゆったりしたテンポの曲で脳を「クールダウン」させる。このように、感情の蛇口を調整するように音楽を選んでみてください。

作業効率を上げる選曲のコツ

特におすすめなのが「ビデオゲームのサウンドトラック」です。ゲーム音楽は、プレイヤーの集中を妨げず、かつ「前進している感覚」を維持するように設計されているため、ループ再生しても疲れにくく、没入感を高める効果が非常に高いんですよ。

言語処理を邪魔しない歌詞なし音楽のメリット

執筆や読書、メール返信など、言葉を扱う作業をしているときは、「歌詞入りの曲」は避けたほうが無難かもしれません。私たちの脳には言語を司る領域がありますが、歌詞が耳に入ってくると、脳は無意識にその言葉の意味を解析しようとしてしまいます。

ADHDの場合、注意があちこちに飛びやすいため、歌詞のワンフレーズに心が奪われると、そのまま「あ、この歌手の他の曲なんだっけ?」「ライブいつかな?」と連想ゲームが始まり、作業が中断してしまいます。そこで、以下のようなインストゥルメンタル(歌なし)の音楽を「1曲リピート」で活用してみましょう。

思考の多動を鎮めるブラウンノイズの活用ガイド

最近、ADHDコミュニティなどで大きな話題になっているのが「ブラウンノイズ」です。テレビの砂嵐のような「シャー」というホワイトノイズよりも低周波成分が強く、「ゴーッ」という深い滝の音や、大型旅客機の機内にいるような重厚な音が特徴です。

なぜこれがADHDに効くのか。それは、この音がADHD特有の「頭の中の多動(止まらない思考)」を物理的に包み込んで隠してくれる(マスキングする)からだと言われています。静かすぎると自分の考え事の声がうるさくて集中できない、というタイプの方には特に劇的な効果を発揮することがあります。

ブラウンノイズの探し方

YouTubeやSpotifyで「Brown Noise」と検索してみてください。「10時間連続再生」などの音源がたくさん見つかります。自分にとって一番「落ち着く重さ」の音を見つけてみてくださいね。

深夜の静まり返った時間や、オフィスが騒がしくて集中できないとき、この「音の繭(まゆ)」に包まれる感覚をぜひ一度試してみてください。驚くほど視界がクリアになるかもしれません。

止まらないイヤーワームを効果的に解消する対処法

音楽リピートには素晴らしい面も多いですが、困った副作用もありますよね。それが、自分の意志とは関係なく頭の中で同じフレーズが鳴り続ける「イヤーワーム(強迫的音楽想起)」です。寝ようとしているのに、サビのワンフレーズだけが永遠にループして眠れない……これは本当につらいものです。

ADHDの人にこれが起きやすいのは、脳のブレーキ役である「抑制機能」が少し緩やかなため、一度始まったループを止めにくいからだと考えられています。そんな時は、以下の方法を試してみてください。

1. その曲をあえて「最後まで」フルで聴く

脳は「中途半端に終わっているもの」を強く記憶に留める性質があります(ツァイガルニク効果)。頭の中でサビだけが鳴っているなら、あえてプレイヤーで最初から最後までちゃんと聴き通してください。脳に「はい、この曲は終わりです。完結しました!」と報告を送ることで、ループが止まりやすくなります。

2. ガムを噛む(物理的な遮断)

これ、意外かもしれませんが科学的な根拠があるんです。脳内で音楽を再生するとき、私たちは無意識に顎や喉の筋肉を微細に動かそうとしています。ガムを噛むことで「噛む」という別の運動情報を脳に送り、音楽再生に使われる回路をジャックしてループを強制終了させるという裏技です。

イヤーワーム撃退チェックリスト

まとめ:ADHDと同じ曲を上手に使いこなすために

ADHDの特性と同じ曲をリピートする行動について、脳の仕組みから活用術まで見てきました。いかがでしたでしょうか。

「自分はおかしいのかな?」と不安に思っていた方も、それが脳のコンディションを整えるための「賢い生存戦略」だと知ることで、少し心が軽くなったのではないでしょうか。自分の特性を無理に矯正するのではなく、どうやってそのエネルギーを生活の味方につけていくか。その視点を持つことが、心地よいライフデザインの第一歩だと私は信じています。

音楽は、私たちの脳を助けてくれる無料のサプリメントのようなものです。自分にとっての「神曲」を相棒にして、自分らしく、楽しみながら毎日を過ごしていきましょうね。

※ご注意点

この記事の内容は、一般的な知見や個人の体験に基づくものです。音楽の感じ方や脳の特性には大きな個人差があります。もし、イヤーワームや特定のこだわりが原因で日常生活に著しい困難を感じたり、眠れない日々が続く場合は、決して一人で抱え込まず、心療内科や精神科などの専門医療機関にご相談くださいね。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう。ひかり先生でした!

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